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2022年3月18日 (金)

【映画】「ゴヤの名画と優しい泥棒」

時間が経ってしまったので簡単に(現在4/13)。

あらすじ公式サイトより)
世界中から年間600万人以上が来訪・2300点以上の貴重なコレクションを揃えるロンドン・ナショナル・ギャラリー。1961年、“世界屈指の美の殿堂”から、ゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれた。この前代未聞の大事件の犯人は、60歳のタクシー運転手ケンプトン・バントン。孤独な高齢者が、TVに社会との繋がりを求めていた時代。彼らの生活を少しでも楽にしようと、盗んだ絵画の身代金で公共放送(BBC)の受信料を肩代わりしようと企てたのだ。しかし、事件にはもう一つの隠された真相が……。当時、イギリス中の人々を感動の渦に巻き込んだケンプトン・バントンの“優しい嘘”とは……!?

もともと気になってはいたが、そのままだと日々に流されて見に行かずに終わるところ。
ある日、テレビで「面白い」とのお勧めを聞いて積極的に見にいくことにした。

端的に言ってすごく面白かった。
どうしてイギリスってこういうのが上手いの?
「フルモンティ」や「キンキーブーツ」が好きな人は気に入ると思う。
逆に、イギリス的ブラックジョークが苦手な人には向かない。
以下、ネタバレがあるかもしれないので、嫌な人はここでストップ。


主演のジム・ブロードベントはイギリスを代表する性格俳優だそうで、なんともめんどくさそうで魅力的なおじいちゃんを怪演している。
妻役のヘレン・ミレンも、「口ではかなわない」みたいなことを男どもに言わせる気の強いおかあちゃんだった。
何しろこの二人がものすごく自然だ。
演技している感じが全くない。
他の俳優たちもそのまま自然にそこにいた感じ(工場のゲスな上司も(笑))。
あまりにも自然すぎてリアリティも感じられないくらい。

それはさておき、いろいろあるけど、やっぱりクライマックスは最後の法廷シーンだよね。
ペリーメイスンを何冊も読んだミステリファンとしては逃せない(まああれはアメリカだけど)。
ここでいろいろとわかってくる。
というか、「あれ? 単純にこういう話じゃなかったの?」という話がいろいろ出てきて、ここまで引っ張ってる脚本は凄いと思った。

そもそもケンプトンが公共放送(BBC)の受信料を無料にしろと叫んでいたその主張だが、よくあるふんわりした一般的な正義感からかと思っていたら、もっと論理的かつ実証的な根拠があってのことだった。
「老人たち」と呼んでいた対象も、「だいたい60歳以上の人々」みたいな抽象的な定義ではなく、ケンプトンにとってはもっとずっと具体的に特定される人々(そして彼にとっては第一次世界大戦をともに戦った血肉の通った同胞)だった。
裁判で語られる彼の言葉は次々と「そういうことだったのか」という納得を生み出していく。
彼の信念はきっといまは亡き監督の信念でもあったに違いない。

その法廷の場面を思い出すだけで胸がギュッとなる。
この映画はそういう映画だ。
もちろん前半のジョークまみれの展開も、夫婦が娘を亡くした傷跡に立ち向かうヒューマンドラマも、興趣に満ち満ちている。
それでも自分にとってのこの映画は、法廷のあの最後の瞬間だ。
バルザックやクンデラの作品のように(まあ彼らの小説のように前半で拷問のような時間を過ごす必要はないが)、最後の最後に「見ててよかった」と思える瞬間がくる。

ただ、結局BBCが無料になったのは2000年代に入ってからだったというエンドロールでの表示には驚かされた。
この盗難事件が起こったのは1961年で、その後半世紀もBBCは孤独な老人たちから受信料を取り続けたし、議員たちもその点を改善しようとはしなかったわけだ。
こういう苦い現実と抱き合わせなのがまたイギリス映画らしい。
もっともそれだって、我らがNHKに比べればずっとずっとずーーーっとマシではあるのだが。

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