【映画】『ダゲレオタイプの女』
ものすごく時間が経ってしまったのでごく簡単に(現在12/1)。
初めに云っておくと、これはホラー映画だ。
宣伝用の画像を見て、ラブストーリーかラブサスペンスかと思いそうだが、ホラーだった。
それも「大人の」ホラー(笑)。
この手の作品は先にネタバレすると面白くないだろうから、見ていない人はここでストップ。
ダゲレオタイプというのは、昔昔の写真機だ。
銀板に直接感光させるんだかなんだかで、被写体は長時間動かずにいることが求められる。
この映画に出てきた、人物大のそのままの写真を撮れる機械は、ほとんど小さい部屋一個分あるくらいの大きさだった。
自分よりもでっかい銀板を入れ替えるなど、工程を見ているのは楽しかった。
そう、その部分は非常に楽しかった。
登場人物は、ダゲレオタイプ使いの写真家と、被写体を務めるその娘と、新しく撮影助手に雇われた青年。
写真家は亡妻の幻影や幻聴に悩まされている。
しかしなんだってそんなに幽霊におびえるのか、観客にはちっともわからん。
ずっとわからないでいるのだが、最後の最後にある情報を得て、「そりゃおびえても自業自得だわ」と思う(笑)。
撮影のために被写体(当時は妻、今は娘)に筋弛緩剤を投与し続けたって、アンタ……。
実は話の中盤で、娘が階段から転落してしまうのだが、なんの前触れもなくて原因がわからず狐につままれた気分になる。
筋弛緩剤の話を聞いてやっと、「もしかして薬のせいなんじゃ……?」と思うわけ。
愛によって作品制作(撮影)に打ち込み、だがその(愛ゆえの)制作によって愛する相手を殺してしまう写真家の業は深い。
ぱんぴーから見ると「あほか」ってな感じである(ゴメン)。
ハナシを戻して。
階段から転落した娘を、青年は病院に連れて行こうと後部座席に乗せて、自動車を走らせる。
ちなみに転落後、写真家は「行ってしまった」と嘆くばかりで、本当に死んでいるのかまだ生きているのか、観客にはわからない。
運転中、いろいろあって、川そばでスリップしてしまい、後部座席の娘(の遺体?)がいったんなくなってしまう。
青年がおろおろと暗闇を探し回っていると、娘がぼうっと浮かび上がるように現れ、家に帰りたいと頼む。
だが青年が娘を連れ帰ったと云っても、写真家は「現実を見ろ!」とわめくだけ。
さて、ここで問題です。
娘は死んだのでしょうか? 生きているのでしょうか?
このあとの展開がかなりうまく作られていて、「こっちじゃないかな~」と思いつつもどうしても確信の持てない(ないし「死んでると思いたくない」)時間が延々と続く。
しかも殺人事件まで起きちゃってもうわやや。
実は娘の転落から先、青年の妄想と現実との境目が、観客にはほとんどわからない。
たとえば、写真家が自殺したかのような映像が先にあって、それでいて青年が殺したとしか思えない第三者視点の映像も用意されている。
だから、もしかして(たぶんそう)、写真家が自殺したという事象も青年の妄想なのでは?
ここに至って、だれがいつからいつまで生きていたのか(植物も含め)、どこからどこまでが「現実」なのか、もう全然わからなくなる。
写真家の立派なお屋敷には娘が手入れしている温室があり、途中までは中の植物類はみんな生きていた(ように見えた)のだが、最後に娘の幽霊がそこを歩くシーンではすべて枯れている。
……いったいいつから?(笑)
生きているように見えていた、それもだれかの妄想なのか?
やっぱアレですね、写真家と青年は水銀中毒にかかってたんだね(現像に大量に使うから)。
幻影も幻聴も水銀中毒のせい。
幽霊はいない。自分の心の中にしか。
亡妻は筋弛緩剤の使い過ぎで死んだし(最後は病院内での自殺とあったが)、娘も筋弛緩剤の副作用で転落死したし、そりゃ自分が殺したようなもんだから写真家はあれだけ恐れるわけだわ。
写真家を殺してしまってから(自殺かもしれんけど)、青年は娘と二人で逃げ出す。
とある町の小さな教会で結婚しようと、二人きりで神前の誓いを交わしたところに、神父が入ってきて「この時間は立ち入り禁止です」。
その時点で、娘は画面に映っていない。
やはりね。
やっと腑に落ちるものの、最後の場面、車の中で一人で相槌を打ったり笑ったりしている青年を見ると、嫌ぁな気分に襲われて、まるでスッキリしないままにジ・エンド。
ああ、すっきりしない映画だった!(笑)
余談。
作中で写真家が「写真は存在を写し取るものだ」みたいなことを云っていたのだが、最近の写真作品をどう捉えるかぐるぐるしていたところだったので、なんだか妙に納得してしまった。
芸術写真が「存在を写し取るもの」なら、昨今の「写真」に類別される作品群はもはや「写真」ではないのだろう(アートではあるにしても)。
逆に「存在」ではなく「情報の切り取り」と考えれば、報道写真はいまだ正しく報道写真である。
| 固定リンク
| コメント (0)
| トラックバック (0)
最近のコメント