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2014年9月12日 (金)

【映画】「NO ノー」  #NO #ノー #ラライン監督 #チリ独裁政権3部作


時間がたってしまったので、ざっと(現在10/7)。

【あらすじ】
長らく軍事独裁を強いてきたアウグスト・ピノチェト政権の信任継続延長を問う国民投票が迫る、1988年のチリ。広告マンのレネ・サアベドラ(ガエル・ガルシア・ベルナル)は、反独裁政権を掲げる信任継続反対派の中心人物である友人ウルティア(ルイス・ニェッコ)から仕事を依頼される。それは、政権支持派と反対派双方に許されている、1日15分のテレビ放送を用いたPRに関して協力してほしいというものだった。レネの作るCMは徐々に国民の心をつかんでいくが、強大な力を持つ賛成派陣営の妨害に悩まされる。

いやぁ、「マーケティングは最重要」な話だった(<違)。
以下、ネタバレを含むのでまだ見ていない方はここでストップ。


非常に特徴的な映画だった。
まず、BGMがない。
これはおそらく独裁反対陣営のジングル(「チリ 喜びを!」というコピーを乗せたCMソング)を際立たせるためだったんだろう。

それから、この映画の解説に必ず書かれることだが、ビンテージカメラを使用している(1983年型池上通信機撮像管カメラだそうだ)。
それによって、こちらはまるで昔のテレビを見ているような気分になる。
合間に昔の映像(件の広告合戦のTV映像)を混ぜ込んでも全く違和感がない。
どこからどこまでが昔の映像なんだか、判然としないくらい自然だった。
(頭で考えればわかるけど、目で識別することは少なくとも私にはできない)

ちなみに、この手の社会派の映画にしては他の作品ほど「革命讃歌」という感じがしない。
人間ドラマ寄りに作られている気もするが、かといって過分にドラマチックでもない。

もちろんお定まりの「妨害」はある。
じわりじわりと嫌がらせを受けて、それに対して一時はうろたえるものの、全部「広告的手法で」反撃し笑い飛ばしてしまう。
こうやって書くとかっこいいけど(実際にかっこいい部分も多いけど)、「広告的手法で」というところが結構ミソ。
主人公がみずから云うように、結局それらは「コピーのコピーのコピー」でしかない。

主人公の会社の上司が体制側の製作指揮を執るのだが、こっちはこっちでアンチ広告の嵐。
やっぱり「コピーのコピーのコピー」でしかない。
どっちも「コピーのコピーのコピー」でしかないんだけれど、明暗を分けたのは結局最初の「マーケティング」だった。
どの層を投票に来させれば勝てるか。
反体制派のこの最初の「マーケティング」への取り組みが、効果の大小を生んだとしか思えない(潜在票の保持者を特定して取り組んでいない以上、単にアンチ広告打っただけじゃ効果が弱いってこと)。

主人公と上司の関係は面白かった。
TV広告合戦でははっきり敵味方に分かれるし、日常、お互いに相手に嫌味を云ったりいろいろ口先ではやり合うのだが、それ以上には戦わない。
二人とも広告マンなのである(笑)。
平常業務はきちんとこなし、力を合わせて企業に広告企画を売り込む。
主人公の元妻が警察にしょっぴかれちゃったときも、上司が世話して釈放してやったりする。
なんだか不思議な関係なのだ。
そして国民投票が終わったあとは、「彼は反体制派の番組を制作して見事勝利に導いた男です」などとヌケヌケと自社の宣伝に利用する(笑)。
いいよね、どっちに転んでも「勝利の立役者です」って宣伝できるの(笑)。
彼ら広告マンにとっては、何もかもが二次利用のための素材なのだ(自分の性生活のエッセンスさえ……)。

あとで公式サイトを見たら、この映画は「パブロ・ラライン監督の長編『トニー・マネロ』、『検死』に続くチリ独裁政権3部作の完結編」なんだそうだ。
知らんかった……。

さらに、インタビューを読んで、監督が広告マンを美化したくなかったこともわかった。
ラライン監督の考えは簡単にいうとこんな(たぶん)。


 「資本主義」を「X」とおくと
  i. X をピノチェト独裁政権が導入
  ii. X の先兵=広告マンにより独裁崩壊
  iii. X の拡大で貧富の差がさらに極端に
 富の独占=今のチリ社会


どうにも最後まで「ヒーローとして感情移入できない」と思っていたら、そういうふうに作ったらしい。
徹頭徹尾「ただの広告マン」なのだ。よくもわるくも。
反体制派の勝利が決まっても、同じような喜びを周りとわかちあえない。だって根はノンポリだもん。
「勝ったの?」などとひとりごちて、町へ出て行ってしまう(「仕事が終わったから帰る」のです(笑))。
その後じわじわと勝利の実感も湧いていたようだが、同時に次の広告企画も頭の片隅で考えていたに違いない。
とにかく根っからの広告マンなのだ。
今の(好ましからざる?)チリの状況を作っている資本主義に対する、監督なりの皮肉でもあるのかもしれない。

気になる方は実際に観に行ってください。
ちなみに、20~30年前の「プレゼン」経験者は(パワポなんかなかった!)、オープニングとエンディングでニヤリとできるらしいですぞ。
見慣れた欧米映画とは少し違う感じで面食らうかもしれないが、私は面白かった

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