
夕方、営業さんと話していたら、「今日は定時にあがって上野に行く」という。
「あ、東博(とうはく)ですね」
「等伯(とうはく)ね。22日までだから」
「22日まで!? うそっ!?」
とゆーわけで、自分も18時に無理やり退社して観に行ってきた。
いやー、会期がこんなに短いとは迂闊だった。
もっと早くに来るべきだったのだが、終了直前なのと日曜美術館などテレビでこぞって取り上げられたらしいのとで、金曜の夕方なのに長蛇の列。
入場制限中で、待ち時間は二十分だって。
それでも土日に来るよりマシだろうと思って、寒風吹きすさぶ中、黙って並んだ。
ちょうど二十分経ったころ、中に入れた。
思ったよりずっとたくさんの水墨画が来ていて、びっくりした。
有名なやつはほとんど障壁画で、しかも結構名のあるお寺が持ってることが多いので、そういうのは出てこないだろうと思っていたのに。
何をどうやったのか、屏風はもちろん(屏風は持ち運べるから)、襖までもがかなりの数にのぼっていて、本当に驚いた。
襖は日常的に使用するものだから、なかなか持ち出せないと思うのだが。
凄いわ。
やるな、東博。感心。
一番の目玉はもちろん、「松林図屏風」で、これは恐らくテレビでも散々取り上げられただろうし、音声ガイドもばっちりあるだろうしで、黒山の人だかりだった。
係員が「最前列の方は止まらないでください」と言っているにもかかわらず、動こうとしない破廉恥おばちゃんズとかがいて、見るのが大変だった。
この絵はなんだか見ていると不思議な感じがする。
奥行きがあるようで、かといってすごく三次元的な没入ができるわけでもなく、ゆらゆら不確かな足場にいるような、立ち位置が定まらない感じ。
テレビや写真で見ると「従容とした」「幽玄の」といった美しさが強調されて見えるが、実物はもっとなんかこう……そんな幽霊っぽくなくて(笑)、なんとゆーか……ちゃんと生命感があるとゆーか……うまく言い表せない。
確実なのは、メディアを通して見るより、実物のほうが絶対にイイ絵だと思う。
さて、目玉は上記の「松林図屏風」だが、私が今回一番好きだったのは、「山水図襖」という水墨画だった。
これはちょっと曰くつきの絵で、大徳寺のどこだかの塔頭(たっちゅう…Macは変換で出るのに、IMEだと出ません。馬鹿?)に描かれたもの。
その塔頭の塔主(たっす)から断られた等伯が、塔主の留守中に勝手にあがりこんで、周りの制止もきかずに描きあげたという、いわば「絵師・等伯」のデビュー作らしい(それまでは仏絵師だった)。
この絵がきっかけとなって、千利休の目にとまり、いずれ秀吉にも注文を受けるようになるわけである。
実はこの襖には、桐の御紋の地紋が一面にちりばめられていて、下手な絵を描けば目にうるさいだけになってしまう。
しかし、等伯はこの地紋を雪に見立てた。
実際、見ていると(絵師の見立てを知らなくても)重い雪がしんしんと降っているように見えてくる。
小さく描かれた人々はかわいいし、中景の仏閣へと続くであろう近景の道の描写は効いてるし、遠景のぼんやりお山は雪を被ってるみたいだし、見ていて全然飽きない。
これは本当にイイ絵だと思うのだけれど、なぜか絵葉書にはなってなかった(恨)。
まぁね。
だいたい自分の気に入った作品って、絵葉書にも何にもならないんだよね(涙)。
ちなみに、この絵に描かれることなく表現されている「雪」の重さ深さをはじめとして、彼が「能登出身」というのは制作の根幹に見られるように思う。
水墨画などで多用される直線的な面を露出した岩々は、見ていて東尋坊(とうじんぼう…これもIMEだと出ない。馬鹿?)しか思い出さないし、上記の雪の「重い」感じも含め、風景の端々に北陸らしさが見られるような気がして、なかなか興味深かった。
もう一つ、こっちは彩色画(金碧画と書かれていた)なんだけど、「萩芒図屏風」の「萩」の絵が好きだった。
萩の丸い葉っぱ(マメ科ですから)がリズムを取るように繰り返され、花が白で活き活きと描かれている。
風に吹かれているみたい。
すごくすごく活き活きして見える。
こちらは絵葉書があったのだが、印刷があまりにも沈んで見えるので、買わなかった。
う~む。
やっぱり実物見なきゃだめかー。
途中で館内放送が流れて、本日20時終了のところを30分延長するとのこと。
やるな、東博。
ここはこういうところが柔軟で好き。
余談だが、あとで見たら20~22日の最後の3日間、本当は18時終了なのに全日20時まで延長すると書かれていた。
少しでも多くの人に見てもらおうという姿勢が好き。
ともあれ、延長のおかげで好きな絵を二度三度と見て回ることができた。
最後のほうになると、さすがの「松林図屏風」も人だかりが緩和されていたし、こうやってのんびり見られるのはいいことだ。
「22日まで」って教えてくれた営業さんにも会えたし(笑)。
全体に見て思うのは、等伯はすごく絵の上手い人ではなかった。
上手い下手で言えば、彼が手本にした牧谿(もっけい)のほうがやっぱり上手い。
でも等伯は「いい絵」をたくさん残してくれた。
技巧ではなくて、何かが心に残るような、そんな絵を。
そのへんが彼の評価と、今に続く人気の秘密かもしれない。
お気に入りの「山水図襖」は先ほど書いたとおり、ミュージアムショップで絵葉書も何も見つけられなかったが、「松林図屏風」の一筆箋が出来がよかったので購入。
とにもかくにも堪能しました。

お土産モノでは「松林図屏風」グッズが大繁殖。
▼この展示の公式サイトはこちら。次は京都で展示。
・東博のサイト…http://www.tohaku400th.jp/index.html
・京都のサイト…http://tohaku.exh.jp/
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