« Password | トップページ | 黄色いかわせみ »

2002年7月17日 (水)

『重力の都』★中上健次

■書名:重力の都
■著者:中上健次
■出版社名:新潮社(新潮文庫)
■発行年月:1992年12月

現在、うちの父親がこの作家にはまっている。
それで、上京したときにおいていった短編集を読んでみた。
本来、この作家は短編集ではなく、『千年の愉楽』といった長編を読まなければ論ずべきではないのだろうが……

まず最初の2作。若いときの、つまり初期の作品らしいが、すっげー悪文(笑)。
2作目なんか、段落がナイ。カントみたい(いや、別にカント読んでませんが…)。
しかしパワーはあって、ぐいぐい読ませる。
じゃあ面白いかってーと、面白くナイ(大笑)。
それでも読ませるあたりが作家の作家たるゆえんで。

3作目以後はまともな文章に。その分、パワーはそがれてしまったが。
でもどれもこれも、この世に染まぬものとしての「神」の影が落ちている。
そしてなんとその異物どもの引く力の強いことか。

どの作品もエロである(でも紛れもない純文)。
いわゆるエロと称されてしまう赤裸々な作品なんかより、よっぽどエロ度が強そう。
そうでなければ「谷崎に捧げる」なんて書けないか。
エロスのエキスがたっぷりはいいが、それ以上に気持ち悪いこと限りなし(いちおー誉め言葉)。
その、なんていうんでしょうか、「存在に対する吐き気」とかそーゆー乾いた吐き気ではなくてですね、もっとじめじめして腐ったような即物的な吐き気ってゆーんですか?
それもエロスの描写ではなく、それを登場人物が回顧しているそのときの描写がもー耐えられないくらい気持ち悪い(だから誉め言葉だって)。
電車で読んでたときに、二度ほど、本当に吐き気がしてきてどうしようかと思った。
敏感な人は、乗り物の中で読むのはオススメしない(全編電車で読んだ私が言うべきではないかもしれんが)。

ああ、後味の悪さに「長編はマシかも」などと興味を抱かせるあたりも、作家の作家たるゆえんか……。

▼この本はこちら
重力の都 (新潮文庫)

|

« Password | トップページ | 黄色いかわせみ »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『重力の都』★中上健次:

« Password | トップページ | 黄色いかわせみ »