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2002年3月 6日 (水)

読書:『猛スピードで母は』★長嶋有

今回の芥川賞受賞作である。
例の如く「文芸春秋」に全ページ掲載されていたので読んでみた。

まあ‥まあですな。
別につまらなくはないけれど、「面白いっ」とは思わない。
ただ、主人公の慎(まこと)くんと世代が近いらしくて、「ああ、そういえばあの頃そうだった」と思える記述が多かった。
しかし‥他の世代にこれが通用するとは思えない。通用しなかったとき、どれだけ面白みが減少するか‥‥。

誤解の無いように言っておくと、つまらない作品ではない。
内容は、小学生の慎の目を通して語られる、母一人子一人の家庭。
ぱっとした明るさはない代わり、「母子家庭」から連想するようなしめっぽさもない。
アクセルをがんがんに踏んで他の車を抜き去るような、ちょっと不良じみたところのある母。
(不良って、死語?)
いわゆる「おふくろ像」からは遠いけれど、慎はそんな母が大好きなようだ。
その辺はよく伝わってくる。

でも、最近の流行なのか、やっぱり感情移入しにくい。
母には全然感情移入できないし、慎は慎で、するには幼すぎる。
苛めにあう話で、慎がその苛めを正当なことと捉え、とにかく災禍が過ぎ去るのを待った、というような記述があったと思うのだが、それはわかる。
私も小学生のとき苛めにあったが、別に理不尽さを感じもしなければ、反抗もしなかった。ただ、意地悪な言葉が去るのを待つだけだ。親にも教師にも言おうなどとは思わなかった。
そういう類似点を持っていてすら、感情移入ができない。
だから結局カタルシスは生まれない。

同じ公団住宅に住む須藤くんが、自分が気にしていたことを、ずっと気にかけていてくれたのだと知ったとき、慎が成長する。その段は上手かった。
でもここも記号的な感触が抜けない。生っぽくない。
もっともこの現実社会がそのように希薄になってきているのだから、それは致し方ないことかもしれない。

選者のひとりが、「幼さ装いをしながら、『母』の言葉で大人の情報を補って、作品全体を大人の世界にしている」というようなことを書いていた。
なるほどな、と、思う。それは確かに成功している。上手いことを言う。
「幼さ装い」とは上手い言葉だ。現在の社会を示す言葉でもある。
でも、どっちかといえば宮本輝や石原慎太郎の辛口批評に一票。カタルシスがない。目新しさがない。
何より私は「幼さ装い」の風潮が大嫌いなのである(笑)。

で、結局読んでいて一番面白かったのは、選者の評だった(笑)。
今回は特にてんでばらばらで面白い。ぜひオススメ(笑)。

▼この本はこちら。


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