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2002年2月17日 (日)

読書:『小石川の家』★青木玉

■書名:小石川の家(うち)
■著者名:青木玉
■出版社名:講談社(講談社文庫)
■発行年月:1998年04月

祖父・幸田露伴、母・幸田文と3人で暮らした小石川の家‥‥。
不自由に見えて自由闊達、昭和初期の生活の様子を、露伴の孫娘である青木玉さんが爽やかな筆致で描き出す。

露伴がもう凄いじーさんで(笑)。ひどいじーさんだ(笑)。
風邪気味だからと、母に渡されて風邪薬を持っていくと、
「それはなんだ」
「風邪薬です」
「何のためのものか」
「母さんがおあげするようにって」
「それでお前は何もきかずにそのまま持ってきたのか」
となる(笑)。
こんなのは序の口、さらに発展して、
「昔、ぎ婆(ぎば)は釈迦の命が危かった時に秘薬を鼠に投げて釈迦の元へ走らせた、なのにバカな猫がその鼠を食ってしまったから間に合わず釈迦は亡くなったというが、しかし薬はそれを飲んだために命を縮めたという説もある」
となって延々と続く(笑)。
「ぎ婆」ですよ、「ぎ婆」(ぎの漢字が出ない‥)。
そうして薬を持って行っただけの孫は、不用意に祖父の命を縮めんとする大悪人に早変わりするのであった(笑)。

玉さんには悪いけれども、解説で森まゆみが書いているように、「そもそもぎ婆は‥‥」なんて話は、滅多に聞けるものではない。
そんな宝物のような言葉が日ごろから家中響いているようで、羨ましかったりもする。
もっとも、実際に自分が「そもそも」とやられる立場になったら、かなりイヤだろうとは思う。かなりどころか、耐えられまい(笑)。

玉さんは、そうやって祖父に叱られ、母に叱られするけれども、すくすく素直に健康に日々を過ごしている。読んでいて実に爽やかだ。
お母さんに対する愛情の深さもいい。
幸田文がまた凄い。どんな具合の悪いときも、どんな理不尽な言葉を投げられても、徹底的に父・露伴に奉仕するのだ。ずいぶん大変だったろうと思う。

なんだか露伴がひたすら酷いじーさんのように思われるかもしれないが(実際とんでもないじーさんのようだが(笑))、戦争が始まったあたりのくだりを読むと、なるほど、この人はこの人で愛すべき人物であったと思わされる。それだけは書き添えておこう。

とにかく日本語が美しい。平明で、味があって、どんどん読める。
安野さんのカバーイラストもいい。オススメの一冊だ。

▼この本はこちら。
小石川の家(うち) (講談社文庫)

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