読書:『死んだ男・てんとう虫』
■著者/訳者名:D.H.ロレンス/〔著〕 福田恒存/訳
■出版社名:新潮社(新潮文庫)
ロレンスは大胆かつ露骨な性表現と精妙な心理描写で、1920年代から広く人気を博した作家。最も有名なのはおそらく『チャタレイ夫人の恋人』だろう。
『死んだ男』『てんとう虫』は、ともにその問題作の原型になったと言われる中編小説である。
『死んだ男』
死んだ男とは、もちろん、西欧世界で史上第二のベストセラーを作った「彼」のことである。
「彼」が磔後に葬られ、三日後に復活する、その時点から書き出されている。
復活した「彼」は、もはや以前の彼ではない。奉仕や説諭にも全然興味がなく、そもそも欲望というものが身のうちにない。なぜなら一度死んだからだ。
「彼」はかつて彼を香油で清めた女を、あるいは彼を慕う弟子を、捨てて、彼自身の旅に出る。
そこで出会う女と、完全な蘇りのイニシエーション……。
結構難しいです。私もかなりの部分を理解できていません。
ただ、ロレンスにとって、キリスト者の求めるような奉仕とは、「屍の愛」であり「死んだ愛」に過ぎないのでしょう。彼にとって「愛」とは、「肉」を離れては得られぬもの、もっと生命感に溢れたものであるべきなのでしょう。なまなましく、荒々しく、醜くて、だからこそいとおしい。
哲学的なものを読み取ろうとすると難解で挫折しそうになりますが、物語として読む分には問題なくつるつる読めます。翻訳に癖があるのがちょっと難点といえば難点でしょうか。
『てんとう虫』
一度(戦争で)死んだ男が二人、そして女が一人。
女は、夫と、伯爵との間で心を揺らす。
夫は彼女に肉の愛を与えられない。彼は一度死んだ男であり、その身のうちにはもはや欲望がないからだ。
伯爵は彼女を愛しているが、現世で彼女を妻に迎えることはできない。彼が与えられるのは、夜より尚暗い約束、いついかなるときも彼女は自分のものであるという信念、離れていても彼女がてんとう虫の妻であるという言質だけである(伯爵の家紋はてんとう虫)。
彼女の魂は闇(伯爵)に絡め取られるが、彼女はなお光(夫)に属する。しかし光が光でしかないがゆえに、もはや本当の愛は感じない。
肉体的な接触によってしか個人間の断絶を消すことはできない、けれど孤独を消すために人は精神的なつながりをこそ求めずにはいられない……その一方で精神のくびきからは解き放たれたいと願っている。
何を書いてるんだ、私は(汗)。自分でもわからなくなってしまいましたが、下世話な要約をすれば「三角関係」です(ああ、ロレンス研究者に撲られそう)。
ただ、出てくる「伯爵」と「夫」がヘンなんです、喋ることが。
話を聞いていると彼らが尺度の違う世界の住人であるような気がするかもしれません。
そしてまた、正当性と好悪とが必ずしも一致するものではないことの再認識も促されます。
哲学的なことはおいておいて、これもまぁ、つるつる読めます。翻訳に癖あるけど。
なんてったって「三角関係」ですからねっ(撲らないで~)。
ちなみにこの文庫本は絶版みたいです…。
▼この本はこちら。
死んだ男・てんたう虫 (1957年) (新潮文庫)
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