読書:『緑の瞳・月影』他12編
■著者/訳者名:ベッケル/作 高橋正武/訳
■出版社名:岩波書店(岩波文庫)
■発行年月:1979年08月
ベッケルはスペインでは知らぬ人とてない詩人…らしい。
この本は詩作ではなく、「ものがたり」の短編集であるが、彼の本質は同じ。
絵の具で表せない色、音符にできない音楽、言葉にならない詩、そういった遠きに在るものを求めてやまない魂の持ち主である。
どの短編も幻想と(これがラテンアメリカ文学の幻想とまるで違うから面白い)、瞳と手と月影と、姿の見えぬ恋人を追う男によって構成されている。この世は儚い。
窓辺に白い手がある。女だと思う。あなたはその女の瞳も髪も何もかも知っている。仮令(たとえ)一度も会ったことがなくても。振り返る。窓の手は消えている。町の魔法が、建物の魔力が、一時の夢を見せたのか。また通る。窓辺に手が見える……。
あとがきに彼の「うた rima」がいくつか紹介されていて、こちらも読むと興味深い。平易な表現なのに詩らしくロマンチックである。
その一節にこんな詩句があった。
わたしは夢、あたいなきもの
霧と光の むなしき影よ
形なく 姿なし。
まさに、彼は形なく姿のないむなしい影を追い求めているのだ。人生は月影を追うがごとし。
さすが詩人だけあって、物語中も美しい表現が多い。それを翻訳した苦労も偲ばれるが、ときどき日本語がヘンです…(汗)。
スピードは出ない。のんびりと夜にでも読むべし。
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